開業して半年余り経過しましたが、今回の話題は駆虫についてです。診療している中で駆虫の方法や考え方について色々思う所がある。というのが今回の記事の理由です。突然ですが、皆様の牧場ではどのように駆虫(どのような薬をどんな頻度で投与)していますか。
さすがに全く駆虫薬は投与していないという牧場さんは少ないかもしれませんが。
・何となく薬をもらって・・・
・以前からずっとやっている薬を機械的に(2ヵ月ごとなど)・・・
・イベルメクチンって使わない方がいいんだよね?・・・
・2種類の薬を順番にやってるかな~!・・・
という牧場さんが多いかもしれないですね。昔(と言ってもちょっと昔です)は、駆虫プログラムなるものが推奨されて、様々な駆虫薬を使って機械的に駆虫を進めてきたという牧場さんが多いと思います。今はいかがでしょうか。同様の方法を継続されていますか? 獣医学も日進月歩、昔の常識は今の非常識かもしれません。(笑)
今日のキーワードは「耐性寄生虫」「ターゲットワーミング」についてお話できればと思います。
「耐性寄生虫」という言葉は聞いたことはありますか?
文字のごとく薬に耐性をもつ(駆虫薬が効かない)寄生虫が世界的に問題になっています。その原因の一つとして考えられているのが、先ほどの漫然とした駆虫です。
耐性のメカニズムをものすご~く簡単に説明します。こんな感じです。
↓
ある駆虫薬Aを飲ませる→死ぬ寄生虫&生き残る(耐性)寄生虫に分かれる→またある駆虫薬A、あるいは駆虫薬Bを飲ませる→死ぬ寄生虫&生き残る(耐性)寄生虫に分かれる・・・・これを延々と繰り返していくと、薬が効かない一族の割合が増えて残ってしまいますよね?
とても簡単なイメージですが、これが駆虫薬が効かなくなる(耐性寄生虫)イメージです。かなり大雑把ですが、、。
さほど意識をせずに漫然とした駆虫を続けた結果、駆虫薬は投与しているのに寄生虫による被害が減らない。駆虫しているのに寄生虫で開腹手術をする馬が次々に出る。という未来にもなりかねません。
そこで、ここからはどうすればいいの?という話です。
今寄生虫対策を考えるうえで、現在提唱されている大事なことが二つあります。
- 駆虫薬を使いすぎない(機械的な駆虫はダメ~!無駄な駆虫をやめよう!)
- 虫卵検査を行う(駆虫薬の種類や頻度、必要性を正しく選択しましょう!)
です。
毎月のようにお金と手間をかけて駆虫を行ってきた生産者の皆様には悲しみを越えて驚きかも知れませんね。涙
そこで推奨されているのが「ターゲットワーミング」です。要約すると、まず虫卵検査をして→寄生虫がいる馬(群)に対して→効果的な駆虫薬を見極めて使用→また虫卵検査して効果を判定する。です。
一見手間のかかるこの手順ですが、大きなメリットがあります。
- 結果的に駆虫の回数が減る?(お金も節約できるかも)
虫卵検査を行い、もし虫卵が検出されなければ駆虫する必要はないのです。(※一部の時期や寄生虫は除く。)駆虫薬1本数千円×頭数分が毎月あるいは数か月に1回かかっていると思います。虫卵検査の料金は勿論かかりますが、駆虫薬の投与頭数や投与回数を減らせるだけでもメリットが発生するかもしれません。また、効果的に寄生虫のコントロールが出来ていれば駆虫の回数も減らすなどできるかもしれません。結果として出費も抑えられる可能性があります。
※ちなみにここで注意点があります。
寄生虫をゼロにすることを目標にするべきではない。ということが現在提唱されています。つまり環境中の寄生虫をゼロにすることは不可能であり、馬の健康に悪影響が出ない範囲内に、出来るだけ効果的な駆虫で維持することが推奨されています。
- 放牧地を守ることが出来る。(☜むしろこちらがメリット大)
お金なんかより大きいメリットはこちらです! 先ほど述べた通り、漫然とした駆虫を繰り返して、耐性をもつ寄生虫がどんどん増えたら、皆様の牧場の放牧地は薬の効かない寄生虫だらけ。手に入れられる薬も効かない薬ばかり。大切な生産馬が寄生虫病の被害に。ということになります。逆に薬の使用回数を出来るだけ抑えて、効果的に薬を選択していくことで、駆虫薬としての効果を維持しつつ放牧地の将来、これからの生産馬を守ることにつながります。
別に今は困ってないけど心配だな・・・。
興味はあるな、やってみようかな・・・。
面倒くさそう、手間がかかりそうだな・・・。
まず何から行えばよいのだろう・・・。
という牧場様はぜひお気軽にご相談ください。
例えば当院では往診時に糞便に回収後、検査結果とともに適切な駆虫薬選択や駆虫スケジュールにつきましてもご提案させていただくことも可能です。(まず最初に牧場さんが行うことはボロを拾って私に渡すだけです!)
「各牧場様のこれまでの飼養管理や駆虫の状況、それぞれの群の状況により、今行うべき寄生虫対策は牧場様ごとに異なると考えています。」
いま生産牧場に求められている寄生虫対策は、各牧場にフィットした寄生虫対策を用意することだと思います。現状のご自身の牧場の寄生虫の状況を把握することだと思います。それは必ずしもお隣の牧場と同じとも限らないのです。牧場と生産馬達の将来を見据えて、今できる寄生虫対策に取り組みましょう!
今日はここまで。